形成外科医の王子です。
だんだんあたたかくなってきました。
あっという間に半袖の季節ですね。
日焼け止め必須です。
症例写真はやまほどありますが、最近ブログ更新のペースが落ちているので反省。
でも薄い内容でたくさん投稿するのは私の性格にあっていないので、
濃い記事を時間をかけて書いていくスタンスは変えないようにしたいところです。
さて本日はインターネット上ではまだまだ少ない前頭筋つり上げ術(筋膜移植)の症例紹介です。
私にとって、とても思い入れの深い患者さんです。
紹介のしがいがあります。
ちなみに筋膜移植についてはこちらの記事をご参照してください。
だらんとさがってしまったまぶた。果たして筋肉は動いているのか。
40代女性。
だんだんと下がってきてしまったそうで、周りの人からも指摘されるようになったそう。
ご友人からの紹介で私のもとにいらっしゃいました。
術前。
みるからにつらそうです。
一見、ハードコンタクトレンズによる眼瞼下垂にも似ているように見えますが、
コンタクトレンズの着用歴はないとのこと。
診察から重症筋無力症の可能性は低いと判断しましたが、
ご家族にミオパチー(筋肉が変性して筋力が下がっていく病気)のかたがいらっしゃるらしく、
ミオパチーにより眼瞼下垂になっているとの情報もいただきました。
眼瞼挙筋がよく動いていれば挙筋前転法で対応できるのですが、
もしミオパチーなどにより眼瞼挙筋の動きが悪ければ前頭筋つり上げ術の適応になります。
これは術前の診察からは確定することはできません。
皮膚の下での筋肉の動きを確実に見極めることができないからです。
私の術前の予想では7-8割方は挙筋前転で対応可能と考えていました。
万が一、眼瞼挙筋が動いていなければ筋膜移植を検討するというプランで手術にのぞみました。
デザインはこちら。
真ん中のラインと一番下のラインを最初に切開し、皮膚切除をします。
そしてもし手術中に眼瞼挙筋がよく動いていることが確認できれば、
一番上の線で切開し皮膚を追加切除するデザインでいくことにしました。
メスで皮膚をスーっと切開。
はさみで皮膚を切り取り、眼窩隔膜を切開。
眼窩脂肪をどけると眼瞼挙筋がみえてくる。
目を開けてもらって眼瞼挙筋の動きを確認。
ほぼ動かない。
読みが外れたので少々焦りますが、もし動いていないなら筋膜移植をすることを決めていたので、すぐに術式変更です。
ふとももから筋膜を最小切開で必要分だけ採取。
そして私好みに加工したところ。
丁寧に加工するのがポイントです。
魂は細部にやどる。
です。
筋膜をうわまぶたと眉毛の間に移植してまぶたの上がり具合を調整します。
このとき、
まぶたのアーチが綺麗にでるまで何度でも、
まぶたの上がり具合がちょうどよくなるまで何度でも、
気のすむまで調整することが大切です。
綺麗に縫いあげて手術終了。
三重のリスクが高いと判断し、袋とじ縫いをしてあります。
ちなみにふとももの筋膜を採取したあとはかなり痛いので、
できれば入院したほうが無難です。
術後7日目、抜糸の日。
腫れは少なめ。すでに術前よりも明らかに開きがよくなっています。
兎眼も1ミリ程度で、眼瞼おくれ(がんけんおくれ:下を見た時にうわまぶたがついてこれなくて、ギョロっとしてしまうこと)もほどほどです。
良い具合です。
こっからだんだんと上がってきます。
術後1か月。
腫れがだんだんひいてきて、まぶたの上がりも増えてきました。
まぶたを最大に開いた時は黒目の上の縁がでるかでないかくらいまで上がります。
経過良好で一安心です。
そしてなにより二重がきれいですね。
でも前頭筋つり上げ術をした患者さんではどうしても食い込んだ二重になります。
これだけは避けられません。
アップで見てみましょう。
くいこんでます。
まるで二重を幅狭くする修正の際につり上げ法をやった時のようです。
そもそもつり上げ法はこの前頭筋つり上げ術から発想を得て開発されたものですからね。
つり上げ法の場合はくいこみはやわらいでいくことが多いですが、
前頭筋つり上げ術の場合はくいこみが残ります。
術後3か月。
腫れもだいぶスッキリして、まぶたの開きがさらによくなってきました。
筋膜はだんだんと縮んでいくので、まぶたがだんだんと開いていくのです。
筋膜のちぢみがほぼおさまるといわれている術後6か月。
とても綺麗で一安心です。
まぶたもだいぶ開いてきました。
兎眼(目を閉じた時の白目)もわずかですし、眼瞼おくれも少しです。
正直そこらへんの美容外科医が挙筋前転術をするより綺麗に仕上がってます。
他の人は載せないきずのアップも。
何度でも言いますが、この食い込んだ感じの二重は避けられません。
筋膜移植してはすごいきれいな仕上がりです。
眉上の小切開のきずあとはこんな具合。
よく見ないとわからないくらい綺麗になりました。
ここが凹むかどうかは筋膜の固定の仕方次第です。
さて術前術後を比べて見ましょう。
まぶたの開きがよくなったのはもちろんのこと、
眉毛の下がり方も自然で、二重の幅も自然です。
視界が広がり、頭痛肩こりもよくなったそうで、
とてもとても喜んでくださり、
私もやりがいを感じて大変嬉しく思いました。
最大開瞼(まぶたを最大限開いた時)を時系列で追っていくと、
筋膜の縮み具合がよくわかります。
黒目の上の白目の出ている量が少しずつ増えているのがわかりますか?
不思議ですよね。
筋膜って本当に縮んでいるんです。
こんな時系列な写真、教科書にも載っていないので貴重な資料だと思います。
症例写真のご協力ありがとうございました。
まぶたの手術で最高難度の手術
ただでさえ眼瞼下垂手術は難しいのですが、
そのなかでもこの手術は格段に難しいです。
綺麗なまぶたの形やちょうどよいまぶたの開き具合を得るのが本当に難しいのです。
そして色々な副作用があります。
適当に手術をされると取り返しがつかない事態になります。
やり直しはほぼできないと思ってください。
手術を受けるにしても、
慣れた医師、経過を見守ってくれる医師、責任感の強い医師にやってもらいましょう。
ところでこのかたの長期経過の写真がまだまだあります。
長期でどこまで変わってくるか。
筋膜は1年以降も縮んでくるのかどうか。
写真をみながら検討してみましょう。
しかし、今回は長くなりすぎたのでまた次回。
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手術内容:眼瞼下垂症手術(前頭筋つり上げ術)
早期のリスク:腫れ、痛み、内出血、感染、角膜潰瘍、角膜びらんなど
見た目のリスク:まぶたの開きの左右差、まぶたの開きの低矯正、
過開瞼、まぶたのアーチの不整、二重の左右差、二重のくいこみ、
キズアト、二重の消失、二重が浅くなる、まつ毛の内反など
機能面でのリスク:眼瞼おくれ、兎眼、ドライアイ、角膜びらん、角膜潰瘍、人工物の露出など
料金:この治療はいまのところ、保険適応でのみ行っています。
3割負担で片側6万円弱、両側で12万円弱です。