王子のまぶたブログ 眼瞼下垂と二重

形成外科専門医の王子富登のブログです。二重まぶたと眼瞼下垂の治療について紹介していきます。

前頭筋つり上げ術のリスク

形成外科の王子です。

 

「ある美容外科で埋没法と目頭切開をすすめられて、計50万くらい支払った。」

 

という話は良く聞きます。

患者さんが気の毒だなと思うのと同時に

美容外科医とカウンセラーの生命力にただただ驚くばかりです。

 

でも、

そういう美容外科がなくなれ とか、

最低なクリニックです とか批難するつもりもありません。

批難したって自分の株があがるわけでもないですし。

 

そもそもどの業界にもそういうひとたちっていますよね。

エステだって、不動産だって、なんだってあります。

ただそれが美容外科に変わっただけのことです。

自称マトモな美容外科医が他の美容外科を批難したって状況は何も変わりませんし、

捉え方によっては自分のクリニックの宣伝でしかないですよね。

そしてむしろ美容外科は怖いなって思う人が増えるかも。

 

なので自分は正しい医療と情報提供をコツコツとやっていくのみです。

 

 

 

前回の記事に引き続き、

本日は前頭筋つり上げ術についてです。 

mabuta-blog.hatenablog.com

 

前頭筋つり上げ術は眼瞼下垂治療においての飛び道具

 

重症の先天性眼瞼下垂や、重症の後天性眼瞼下垂の治療において、

前頭筋つり上げ術は奥の手といいますか、飛び道具に近い存在だと思っています。

なぜなら、通常の挙筋前転術という手術では開かないまぶたにとっての

唯一の治療でありながら、

リスクや副作用が多く、手術結果も不安定な場合が多いからです。

もちろん成功すれば副作用をうわまわる多大なメリットを得ることができます。

 

 

普段私たちはまぶたを開く際に眼瞼挙筋(がんけんきょきん)という筋肉をメインに使います。

この筋肉の機能が落ちた状態が眼瞼下垂症です。

なので大部分の眼瞼下垂症は眼瞼挙筋を修復することでまぶたが開くようになります。

この修復する手術を挙筋前転術というわけです。

眼瞼下垂治療の99%以上はこの手術が占めます。

でも、筋肉の機能が著しく落ちた場合はその筋肉を修復したところで、

ほとんど動きません。もう眼瞼挙筋には頼れない状況です。

そんなときは他の筋肉に頼らざるを得ません。

 

どこの筋肉を使うか。

 

眼輪筋でもなく、ミュラー筋でもなく、前頭筋(ぜんとうきん)です。

前頭筋はおでこの筋肉です。眉を持ち上げる際に使う筋肉です。

一生懸命まぶたをあけるときにこの筋肉を使うかたが多いです。

実際に、まぶたをあける挙筋機能が落ちてきたときに、

前頭筋をつかって眉毛を上げてまぶたを開けることを補助するようになるため、

眼瞼下垂症のかたはおでこにシワができるんですね。

 

前頭筋つり上げ術は、この前頭筋とまぶたを筋肉の膜などでつないで、

眉毛をあげるとまぶたが上がるようなシステムをつくる手術です。

考えた人は間違いなく天才ですね。

 

 

前頭筋つり上げ術のリスクや合併症

 

前頭筋つり上げ術において、前頭筋とまぶたをつなぐ材料はいくつかあります。

 

 

この中でも日本で用いられることの多いのは、筋膜ゴアテックス

筋膜はふとももやこめかみの筋膜を使用することが多いです。

ゴアテックスは人工素材です。

 

まずどちらの素材を使用したとしても起きることがある合併症について。

 

  1. 眼瞼おくれ(必発)
  2. 兎眼(ほぼ必発)
  3. くいこんだ二重(ほぼ必発)
  4. まぶたの開きの低矯正、過矯正(よく起こる)
  5. まぶたの開きの左右差(よく起こる)
  6. まぶたのアーチの乱れ(よく起こる)
  7. 逆さまつ毛(たまに起こる)

 

1. 眼瞼おくれ(必発)

これは必ず起きます。伏し目をしたときに上の白目がぎょろっとでる現象です。

眉毛とまぶたをつなげているので、目だけで下を見たときに

まぶたがついていかないのです。だから「おくれ」といいます。

対策はあります。

スマホ見たり読書したりする際に、顔をさげるようにすることで、

眼瞼おくれがほとんど目立たなくなります。

 

2.兎眼(ほぼ必発)

兎眼とは目を閉じたときに目があいている状態のことをいいます。

前頭筋つり上げ術は強制的にまぶたをあけるような手術です。

なので多くの場合で目がとじきれません。

程度にもよりますが、点眼薬だけでも問題ないかたもいれば、

寝る前には眼軟膏を目に塗らないと乾いて乾いてつらいかたもいます。

症状が強くでてしまった人は角膜びらんやドライアイなどで目の痛みを訴えるかたもいます。

対策としては、手術にまぶたを開かせすぎないこと。

でもある程度は開かせないと手術の意味がないので、

その調整が非常に難しいところです。

 

3.くいこんだ二重(ほぼ必発)

この手術では自然な二重はできません。

ひっぱられた状態でとまったような、動きのない二重となります。

まぶたの開きを控えめに調整すれば

なるべくひっぱられない二重をつくることもできるのですが、

これもまた調整が難しいです。

そして二重を作らないとなると、逆さまつ毛になります。(後述)

 

4.まぶたの開きの低矯正、過矯正(よく起こる)

まぶたを開かせすぎると、ドライアイや兎眼が強くなります。

まぶたの開きを弱くしすぎると、手術した効果を実感できません。

また、筋膜は経過とともに縮むので、

その縮みによってまぶたの開きが徐々に開きすぎになることもあります。(後述)

 

5.まぶたの開きの左右差(よく起こる)

これも難しい問題です。両側同じように手術をしたとしても、

手術操作のわずかな差、眉毛のあげる具合の差などによって、

まぶたの開きの左右差は起こり得ます。

完全対称は不可能です。

特に、片側の先天性眼瞼下垂症は、前頭筋つり上げ術で大満足な結果を得ることが

非常に難しいです。

片側は眼瞼挙筋を使って開け、片側は前頭筋を使って開けることになるので、

システム自体が違うからです。

片側の先天性眼瞼下垂症のかたは眉毛をあげないことが多いのも

よい結果がでにくい理由のひとつです。

 

6.まぶたのアーチの乱れ(よく起こる)

前頭筋つり上げ術は、強制的にまぶたをひっぱりあげるような手術です。

なのでどうしてもきれいなアーチを作ることがむずかしく、

ひっぱられているところ(筋膜などを縫い付けているとこと)が

「ピーキング」といって角張ることがよくあります。

また、まぶたの外側のあがりが足りないことも多いです。

ここに筋膜が縮む現象が加わるとさらにピーキングが強まることがあります。

 

7.逆さまつ毛(たまに起こる)

まぶたが強制的にもちあげられても、

二重がゆるんだり、二重がとれたりすると、

まつ毛の上の皮膚がだぶだぶと余ってしまいます。

それによってまつ毛が押し下げられて、

逆さまつ毛が起こることがあります。

対策は、手術中に二重をしっかり作ることです。

 

 

前頭筋つり上げ術に使用する素材特有の利点欠点とリスク

 

国内では筋膜かゴアテックスを使用することが多いと上で述べましたが、

それぞれ利点欠点があります。

 

  • 筋膜の利点

自分の組織であり異物ではないので、感染や露出の危険性が非常に低い。

 

  • 筋膜の欠点とリスク

筋膜を採取した部位のキズアトができる。採取後の痛み。

筋膜は時間とともに縮んでいく。(拘縮)★

 

自分の組織をとる必要がなく、負担が少ない。

縮んだりしないので、調整しやすい傾向がある。

 

人工物であるため、感染や露出の可能性がある。★

人工物であるため、手術後に少しゆるみがでることが多い。

 

 

このなかでも臨床的に問題となるのが、★をつけたものです。

解説します。

 

★筋膜の縮み

縮みは拘縮(こうしゅく)といいます。

個人差がありますが、移植した筋膜は手術後1年くらいで0〜20パーセントくらい縮む

と言われています。

これが非常にやっかいです。

全体的に縮んだら上がりすぎて、目が開きすぎになります。

部分的に縮んだら、まぶたのアーチが角張ります。(ピーキング)

でも縮みを予想することは不可能なので、

手術中の調整は「勘」によるところが大きくなります。

控えめな調整が安全です。

もし拘縮が強くでてしまい、まぶたが開きすぎになったら、

筋膜を切断したりしますが、これは結果は安定しません。

 

ゴアテックスの感染、露出

ゴアテックスは人工素材であるため、バイキンに弱いです。

付着したバイキンが増殖すると、感染が成立し、

ゴアテックスが露出したり、赤く腫れたりします。

こうなったら、除去するしかありません。

除去してもある程度効果は残ると言われていますが、

せっかくいれたものを除去したい人は少ないですよね。

ゴアテックスの感染の確率は5%程度いわれていますが、

文献によって様々なので全然あてになりません。

 

 

どちらの素材もメリットデメリットがあるので、

患者さんの症状や年齢、希望によって使い分けていくことが重要ですね。

 

 

今日は長くなりましたが、前頭筋つり上げ術を検討している人には

ぜひ読んでほしい内容です。

 

 

本日のまとめ

 

前頭筋つり上げ術はとても難しい手術、

言い換えれば結果が不安定な手術です。

形成外科専門医のなかでも、

この手術の経験が豊富な医師にやってもらうべき手術です。