王子のまぶたブログ 眼瞼下垂と二重と逆さまつげと

形成外科専門医の王子富登のブログです。二重まぶたと眼瞼下垂と逆さまつげなどの治療について紹介していきます。

筋膜移植(前頭筋つり上げ術)の長期経過と拘縮について分析する。

形成外科医の王子です。

 

梅雨入りですね。

あっという間に夏がきて、夏が過ぎ去っていくのでしょう、

そして秋がくるとまたひとつ歳をとるのです。

健康に楽しく歳を重ねていきたいものです。

 

 

なにがいいたいかよくわからなくなってきたので、

前回の続きにまいりましょう。

mabuta-blog.hatenablog.com

 

重症の眼瞼下垂症(筋原性の眼瞼下垂症)を前頭筋つり上げ術(筋膜移植術)で治療したお話でした。

今回はその長期経過です。

先に言っておきますが、けっこう貴重ですよ。

 

移植した筋膜は2年後にどうなるのか。

筋原性眼瞼下垂

すなわちまぶたを開く筋肉である眼瞼挙筋の動きがとても弱い眼瞼下垂症に対して、

筋膜移植による前頭筋つり上げ術を行ったかたです。

 

術前術後。7か月の経過です。

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スーパー難しい手術なのですが、良い仕上がりでガッツポーズです。

 

経過観察はまだまだ続きます。

 

術後1年

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一年経っても安定していますね。

でも気になることが少し。

最大開瞼が少し大きくなっているような、いないような。

 

 

術後2年

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眼瞼遅れ(下を見た時にまぶたが下がり切らないこと)

も兎眼(まぶたを閉じきれないこと)もそんなに大きなものではなく、

確実にやってよかった治療となりました。

副作用は目の乾きくらいでしょう。

点眼薬は手放せませんが、「視野が確保されていること」のほうが大事です。

2年間も安定していれば安心です。

お写真のご協力ありがとうございました。

 

 

最大開瞼で比べてみる筋膜の縮み

 

前にも何度か記事にしていますが、

筋膜って縮むんです。

絶対に少しは縮むんです。

 

だから難しいんです。

 

眼瞼下垂の大御所の先生がおっしゃるには、

「筋膜は術後10日くらいから縮み始め、1.5か月で最大に縮み、縮む率は15~30%。

それ以降はすこしゆるむ。」

とのこと。

 

たくさん症例をこなしてたくさん計測したのかもしれませんが、

これに関しては前から私は疑問をいだいていました。

私の知っている症例の経過と合わないのです。

 

今回のかたの最大開瞼を時系列で見てみましょう。

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撮影条件の細かな違いはありますが、

明らかに最大開瞼が大きくなっています。

しかも術後7か月以降も確実に大きくなっていて、眉毛と目の距離が少しずつ近付いています。

筋膜の拘縮(こうしゅく:きずや移植物が縮んで硬くなること)がすすんだのでしょう。

これ以降はさらに縮んだという印象はありませんし、写真のみの判定にはなりますが、

今回の症例に関しては2年ほどかけて筋膜は縮んでいったといえます。

「1.5か月が縮みのピークでそれ以降はすこしゆるむ。」という意見とは全然違います。

もちろん手術の内容に違いがある可能性もありますが、

少なくとも私のやりかたでは、筋膜は長い時間をかけて縮んでいくことが多いです。

 

すごいことですね。

 

2年後の筋膜の縮みまで考えて手術を行わなければならないなんて難しすぎます。

それでも必要に応じてこの手術を行わなければなりません。

この手術でしか視野を確保できないかたが少数いらっしゃるからです。

需要は少ないですが、必要とされるその時のためにいろいろと研究して努力しているのです。

 

でも最近はゴアテックスを使って前頭筋つり上げ術を行うことが多いです。

ゴアテックスは筋膜と違って縮まないからです。

感染さえしなければとてもよい材料で、今後は筋膜と置き換わっていく可能性が高いと考えています。

 

今回はいつにもまして貴重な症例写真でした。

経過を長くみせてくださった患者さんには本当に感謝です。

 

重症の眼瞼下垂や前頭筋つり上げ術で困っているかた、悩まずにご相談くださいね。

まずはその一歩からです。

 

 

 

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手術内容:眼瞼下垂症手術(前頭筋つり上げ術)

早期のリスク:腫れ、痛み、内出血、感染、角膜潰瘍、角膜びらんなど

見た目のリスク:まぶたの開きの左右差、まぶたの開きの低矯正、

過開瞼、まぶたのアーチの不整、二重の左右差、二重のくいこみ、

キズアト、二重の消失、二重が浅くなる、まつ毛の内反など

機能面でのリスク:眼瞼おくれ、兎眼、ドライアイ、角膜びらん、角膜潰瘍、人工物の露出など

料金:この治療はいまのところ、保険適応でのみ行っています。

3割負担で片側6万円弱、両側で12万円弱です。